シベリアレモン
5限は空きコマだった。
居場所を求めて放課後稽古する教室にやって来た。もし使われていないならそこに居ようと思って、
教室の扉は開いていた。土足厳禁の教室。
教室の外側に、黒いヒールが一足。
しかし電気はついていない。
少し緊張しながら中を確認すると、誰も居ない。
荷物も無い。
少し強い風と擦れる葉の音が聴こえるほど静かだった。
靴はきちんと揃えられていた。
その靴一足で教室は不思議な空間だった。
人が来たら出ようと思い、中に入った。
寝そべりながら台本を読んで胡麻入りの醤油煎餅を食べていた。
ポリポリボリボリ
すると鍵の音がして女の人が来た。
飛び起きてモゴモゴ煎餅をどうにかしようとしながら、すみませんすみませんと出る準備をしようとした。
女の人は、鍵だけ…。と言って入ってきた。
教室の入口には、また新しい靴が脱がれていた。
持ち主じゃなかった。
これはまだここに居ても良いんじゃないかという気がして、女の人が出て行くのを待った。
靴の持ち主はまだ現れない。
何これ、何この感じ
突然演劇世界に入れられて、これを誰かが観ているんじゃ無いかという気がしてきた。
靴一足に操られる。
ザワつく教室。
電気をつけに行く気にならない。
じっとしておこう。
・久々に高校の友達のLINEが動いた。あぁこのスピードと笑いだ、と懐かしくなった。シチリアレモンのシチリアは寒い所だと言った。
・寝っ転がれる教室を独り占めだ!
・今日の稽古も楽しい予感しかない。